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森で一緒に過ごした日々が心の居場所になるように

森のようちえん ちいろば  内保  亘さん

                ひとみさん

自然の中で子どもが育つ森のようちえん

自然の中で子どもが育つ森のようちえん

「森のようちえん」は、自然体験活動を基軸にした子育て・保育、乳児・幼少期教育の総称で、幼稚園だけでなく、保育園、託児所、学童保育、自主保育、自然学校、育児サークルなどが含まれ、0歳から概ね7歳ぐらいまでの子どもたちを対象としています。1950年代に、デンマークのあるお母さんたちが「子どもは自然の中で育てたい」と、有志で集まったことに始まり、その理念は北欧やドイツを経て、日本にも広まりました。「ようちえん」と平仮名で表記するのは、法的に「幼稚園」と名乗れない自主運営団体だからです。わたしたちが運営する「森のようちえん ちいろば」は、認可外の保育所として、2013年の9月にスタートしました。園舎は佐久穂町大石地区のかつて分校だった建物で、現在は12名の園児が通っています。

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園長の内保亘は、ドイツ文学を学んでいた大学院時代に 「子どもへのまなざし(Wendung zum Kinde)」という言葉に感銘を受け、教育に関わる仕事に就きました。しかし、そこで出会った幼児教育は、わたしの考える「子どもらしさ」とはかけ離れていると感じ、自分のまなざしをどう子どもに向けていくのかを模索する中で「森のようちえん」に出会いました。これを自分で運営しようと決めてから、保育士や幼稚園教諭の資格を取得しました。

 佐久穂町に来たのは、偶然と人の縁が重なった結果です。佐久市には学生時代からよく来ていたので、佐久市で開園しようと考えていました。しかし、保育所に使える物件はなかなか見つからず、行き詰っていたとき、ときどきお邪魔していたカフェで「佐久穂町で分校だった建物の活用を考えている人がいる」と教えてもらい、この園舎に出会うことができました。

​遊びの中で“自分の根っこ”ができる大切な幼少期

「ちいろば」では、ほぼ毎日屋外での活動があります。雨や雪が降っても出かけます。今年から園舎から5分ほどのところにある森をお借りできたので、そこで木のジャングルジムや海賊船を作るのが、ここ数日の遊びです。子どもたち自身がのこぎりやトンカチを使って、枝を切ったり、組み立てたりします。何を作るのか、どんなことをするのかは、子どもたちが考え、試行錯誤しながら進めます。わたしたちは、彼らが考え、行動を起こすきっかけは作りますが、あまり手を出さずに見守ります。自分で何かを発見し、「やりたい」と思ったことを、大人に頼らずに、とことんやれるように。そうやってめいっぱい遊んだ子どもの顔は、達成感と自己肯定感に満ち、輝いていますし、自分で何かをしたり、主張したりといったことが自然な表現として出てきます。人からただ求められる子ではなく、求めていく子になっていくのです。そうした「子どもらしい日々」を重ねることが、「かけがえのない自分」を築き、自分も人も大切にできる土台になるのではないでしょうか。

 充実した1日にできるよう、朝の会では季節やその日の活動に合わせて詩や歌、絵本やお話など繰り返しの中で心に染み入るような集まりをします。帰りの会では1日を振り返り、明日への期待を感じられるような対話をして、しめくくりをします。先日、ある子から「秋という漢字に火の字が入っているのは、火が紅葉みたいに赤いからかな?」などという言葉を聞くことができ、本当うれしい気持ちになりました。

佐久穂町の豊かな自然の中で0歳から100歳までの子どもたちと共に

「ちいろば」では、近くの森のほかにも川や畑、八千穂レイク、駒出池キャンプ場なども活動の場になります。春には山菜を採り、夏には川で遊び、秋には落ち葉や木の実で遊び、冬にはそり遊びや雪遊びをして、季節ごとの自然を身体いっぱいに感じ、季節の流れを丸ごと味わいます。今年からは、曜日に合わせて、火の活動(火曜日)、水の活動(水曜日)、木の活動(木曜日)といったテーマ別保育も導入しました。通常の保育のほかに、小学生向けの自然体験プログラム「とぶきょうしつ」も行っています。この夏は1泊のキャンプを含めた「昆虫大作戦」でした。

 わたしたちが「ちいろば」で行う活動は、保育という枠に留まらない「人間関係業」でありたいと考えています。卒園したらそれで終わりではなく、ここを訪れ、関わってくれるすべての人にとって「いつもここ」にある心の故郷・居場所になりたい。子どもを持つ保護者のみならず、地域の皆さんにも、わたしたちの活動や理念を知っていただき、共感していただけたら、本当にうれしいし、共にこの地を、自然を、人々を愛し、大切にしていける人を育てていけたら、そんな思いで日々子どもたちに向き合っています。

​取材を終えて

 ちいろばにうかがったのは、9月の長い雨がやっとやんだ晴れた日でした。園舎から森につながる道は木々に囲まれ、とてもいい雰囲気です。森には、小さな畑のほかに海賊船や落とし穴や、ジャングルジムがあり、それでも何もないスペースが十分にあり、まだまだいっぱい遊べそうです。たっぷり遊んだあとに、帰りの会がありました。「帰りの会をするので、椅子を持って集まって」と内保さん(通称わたにぃ)が語りかけ、みんなが準備する間、歌を歌います。優しい声で、静かに語りかけるように。子どもたちはめいめい荷物と自分の椅子を持って内保さんの前に集まり、静かに会が始まるのを待ちます。自由であるが無軌道でなく、自分があるが他人を尊重できる、そんな子どもたちが育っているように感じられました。

 「どのような教育論・保育論が議論されようとも、人間の人生の根本を造る乳幼児期に、自分が何によって生かされているか、その仕組みに触れ、識るということは何にもまして重要なことだとわたしは確信しています。その答えを「自然」と「愛」に求めるのは、多くの人の共感するところではないでしょうか」。これは内保さんがちいろばのホームページの中に「園長の思い」として述べていることの一部です。この記事では伝えきれない内保さんご夫婦の思いを、ご一読いただければ幸いです。

文責 赤堀公子

※赤堀公子さんのインタビュー・ライティングによって佐久穂グルメ新聞町民キッチン2015年秋号に掲載された記事を、2023年1月に改訂しました。

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